小競り合い、というほどでもないささやかな戦闘がときおり起こるくらいである。
そういうときは、きまって俊冬が一人で追い払ってくれる。
俊冬は落ち着かないようである。
それをいうなら、botox眉心 相棒もどこかそわそわしている。
おれの気のせいなのかもしれない。そう感じられる。
理由を尋ねても答えてはくれない。
最初のうちは、俊春とのやりとりを気に病んでいるのかと思っていた。
だが、俊冬の様子がそわそわからイライラにかわってきた。
それを感じると、こちらもだんだん気になってくる。
いいや。不安を抱いてしまう。
「たま、なにをイラついているんだ?」
もう何度目かに敵の小隊を追い払ってきた俊冬に、ストレートに尋ねてみた。
副長は腕組みをし、島田たちはそれぞれの立ち位置から、俊冬をみている。
その俊冬の脚許には相棒がいて、かれをみあげている。
その相棒の表情が、どことなく不安気であるような気がする。
「イラついている?」
かれは銃を肩に担ぎ直し、尋ね返してきた。
「ああ。イラついているのがまるわかりだ。鈍感なおれにわかるくらいだ。副長や島田先生たちだって気がつている。なぁ、そのイラつきの原因ってぽちのことなんだろう?」
かれは当惑したようにおれと副長、それから島田と安富と蟻通を順にみた。
「木古内でによる大きな流れを感じる。それだけだ」
そして、かれは最後におれとを合わせて答えた。
たしかに、木古内では大激戦が繰りひろげられているはずである。知内というところに彰義隊が孤立してしまい、それを救出すべく伝習隊や遊撃隊、額兵隊が攻撃を仕掛けるのである。
結局、新政府軍は挟撃を怖れて木古内から撤退するが、味方の死傷者はすくなくない。
すくなくとも、史実では七十名以上の死傷者がでている。
それほどの大激戦である。
当然ながら、の流動は起こる。
そんな中で、俊春は一人孤軍奮闘しているはずである。伊庭は当然のこと、一人でもおおくの味方を救おうと、それこそ悪鬼羅刹のごとく動きまわっているにちがいない。
俊冬の苛立ちが、それに起因していることは明白である。
「たま、木古内へいってくれ」
そのとき、副長が命じた。
俊冬がはっとしたようにおれから副長へとを移す。
「こちらはもう、たいした戦いはない。おれたちで充分だ。それよりも、のほうが大変なことになっている。ぽち一人では……」
「副長、お気遣いありがとうございます。ですが、あいつ一人で大丈夫です。あいつには、それだけの力がありますから」
が、俊冬は頑なである。
副長もそれ以上なにをいってもムダなことがわかっている。
ゆえに、なにもいわなかった。
その後も俊冬の苛立ちがおさまることはなかったが、そう長くはつづかなかった。
なんと、人見と伊庭がやってきたのである。三名の遊撃隊の兵卒がつき従っている。
「八郎、無事だったか?」
副長が、心からホッとしたで伊庭の懐を脅かし、その両肩をきれいすぎる掌でつかんだ。
「八郎さん、よかった」
もちろん、おれもホッとした。
が、かれのかたいが、不安をかき立てる。
まず、人見が戦況を語った。
新政府軍に奪われた木古内を奪還後、それを放棄し、矢不来に後退、そこに砲台と胸壁を築いたという。
それらは、まったくもって史実通りである。
矢不来に仕切り直した新政府軍が迫っているとの報告があったため、いまごろは戦闘状態だろうという。
史実では、この戦闘で味方は敗れる。
その敗戦を受け、おれたちも二股口から撤退せざるを得なくなる。
なぜなら、ここにとどまって小競り合いを続ければ、地形的に孤立してしまうからである。
「主計、おれたちも撤退するなんだな?」
副長に尋ねられ、無言でうなずいた。
「島田」
それを確認した副長が、島田を呼んだ。みなまでいわずとも、それだけで撤退するという命令となる。
島田と安富と蟻通が撤退の準備に入ろうと、立ち去りかけたそのときである。
「その……。口止めをされたのですが。というよりかは、ここにきてはダメだといわれたのですが……」
伊庭が思いつめたように口を開いた。
かれは、めずらしく両拳を震わせてうつむいている。その隣で、人見が居心地悪そうな、それでいていたたまれぬような、そんな
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