『それもあって私を連れ出したのね……。』

『それもあって私を連れ出したのね……。』

 

 

でも生憎その面々には会いたくないから教える機会がない事を願う。

 

 

「それなら俺が把握してる。三津は藩邸に戻す。危険な目に遭わせたくない。」

 

 

吉田が足を止めた。搾り出された声が切実に訴えていた。botox眉心

 

 

『私が酷い目に遭った時を思い出しはったんやろな……。』

 

 

一緒に足を止めた三津は胸が苦しくなって悲痛な顔を吉田に向けてしまった。

 

 

「……ん,日を改める。三津さん悪かったな。」

 

 

高杉は変わらず明るく笑って見せると三津の頭の上でぽんぽんと手を弾ませてから藩邸へ引き返した。

 

 

それに安堵した吉田は小さく息を吐いて“戻ろう”と囁いた。

穏やかに笑ってみせたその顔が弱々しくて覇気がなくて,三津を不安にさせた。

 

 

「あの……。」

 

 

思わず吉田の右手を。その指先をきゅっと握った。

 

 

「戻ろう。」

 

 

その手を握り返して来た道を戻る。三津はその背中について歩いた。

 

 

門をくぐれば桂と久坂が仁王立ちで待ち構えていた。

 

 

「晋作……。」

 

 

桂は怒りと呆れが入り混じった声を発した。

 

 

「ごめんなさい!私が油断しました!反省しますからお部屋に!」

 

 

三津はお説教なら聞きますからと桂の腕をぐいぐい引っ張って屋敷の中に戻った。

 

 

「……何三津さんに気を遣わせてるんだ?」

 

 

久坂は説明しろと高杉に詰め寄った。

 

 

「いや,気を遣わせたのは俺だ。多分三津は全部自分で背負い込もうとしてる。迷惑かけた自分のせいだと思ってる。」高杉を庇うように挙手した吉田に目を丸くした久坂。どう言う意味だと首を傾げた。

 

 

「晋作が三津を連れ出したのも,俺が連れ戻しに来たのも,色々と自分のせいでこうなったと責任感じてるみたい。

でもそう思わせたのは俺の態度だ。」

 

 

吉田は自嘲して答えた。久坂は何となくそれを汲み取った。

 

 

「心配されてるのがよく伝わったんだろ。まぁ桂さんからしたら三津さんの方から二人きりになるきっかけを作ってくれたから喜んでるさ。」

 

 

ふっと笑って屋敷の方へ振り返った。

 

 

 

 

 

 

三津は桂を自室まで引っ張って押し込むと後ろ手で戸を閉めた。

 

 

「あの,高杉さん怒らないであげてください。私が藩邸と家から出てないって思って息抜きに連れ出そうとしてくれたみたいで……。」

 

 

眉尻を八の字に垂れ下げてお願いと縋りついた。

 

 

「そうか。分かった今回は許すとしよう。三津に免じて。」

 

 

今回だけだよと半ば呆れたような笑みだったが許しの言葉が出て三津は表情を緩ませた。

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

好き好き!と抱き着いたお腹に頬ずりをしてから女中の仕事に戻る為に部屋を飛び出した。

 

 

「忙しい子だね……。」

 

 

もうちょっと居てくれてもいいのに。名残惜しいと障子を見ていれば別の影がちらっと見えた。

 

 

「桂さんちょっといい?」

 

 

情けなくも聞こえる高杉の声に障子を開いた。

高杉はいそいそと中に入って障子を閉めた。

 

 

「反省の意でも伝えに来たか?」

 

 

そこに正座しろと指で差して桂も無駄のない所作で正座した。

 

 

「稔麿の様子がおかしかったけぇ。稔麿は三津さん危険な目に遭わせたん?」

 

 

本人には聞ける雰囲気じゃなかったんだと真剣に問いかけた。

 

 

「まぁ……一度三津が身を呈して壬生狼から稔麿を庇った事がある。」

 

 

吉田からすれば思い出したくもないし口にしたくもない一件。桂も口を濁した。

 

 

「……三津さん怪我したんか。」

 

 

それにはただ静かに頷いて答えた。

 

 

「ん,よく分かった。もう勝手に連れ出さんけぇ。」

 

 

許してくれと頭を下げると高杉もすぐに部屋を飛び出した。

 

 

「本当に……。ちょっとは落ち着いてくれないかねぇ……。」

 

 

これから藩邸を空けるのが不安で仕方ないと大きく溜息をついた。

まさにこれから出掛けなければならないのに。

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